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名古屋高等裁判所 昭和53年(く)44号 決定

少年 N・N(一九六〇・八・二六生)

主文

原決定を取り消す。

本件を名古屋家庭裁判所に差し戻す。

理由

本件抗告の趣意は、記録に編綴された附添人○○○○名義の「執行停止申請」及び「抗告理由陳述書」と各題する書面に記載されているとおりであるから、ここにこれを引用する。

抗告趣意中事実誤認の論旨について

所論は、要するに、本件においては、少年が原判示非行事実に加わつたことを認めるに足りる的確な証拠が見当たらないのであるから、右非行事実を認定したうえ、少年を中等少年院へ送致した原決定には、重大な事実の誤認がある、というのである。

しかしながら、一件記録によると、少年が、原判示各非行事実を犯したことは明らかであると認められる。もつとも、少年は、捜査当時以来原審審判廷に至るまで、一貫して自己のアリバイを主張して右各非行事実を否認する供述をしており、原審証人A及び同Bの原審審判廷における各供述並びに証人Cに対する原裁判所の尋問調書など、右少年の供述と一部符合する供述もないわけではないが、右少年及び各証人の供述等が、その余の関係証拠と対比してとうてい措信し難いことは、原決定が、その「非行事実を認めた理由」欄において詳細説示するとおりである。その他所論にかんがみ、記録を調査して検討しても、原決定に、所論の事実誤認は毫も認められず、論旨は理由がない。

抗告趣意中処分不当の論旨について

所論は、要するに、原決定の処分が著しく不当である、というのである。

所論にかんがみ記録を調査し、当審における事実取調べの結果をも参酌して検討するに、記録に現れた本件非行事実の罪質、態様並びに少年の非行歴などに照らすと、少年を中等少年院に送致した原決定の処分も、あながち理解できないわけではないが、他面、記録によれば、本件は、いわゆる暴走族同士の対立・抗争から発生した事件であつて、その社会的影響は軽視し難いにしても、これによつて、一般市民に対し直接危害を与えたり、著しい迷惑を及ぼしたりしたものではないこと、右事件において、少年が、とくに主導的役割を果たしたとは認められないこと、少年には、これまで施設収容の保護処分歴がないことなどが明らかであるところ、右の点に加え、当審における事実取調べの結果によつて明らかな他の共犯者らの処分の状況(とくに、少年の所属する集団のリーダー格で、本件においても主導的な役割を果たしたと見られる少年二名が、原決定後、名古屋地方検察庁において、不起訴処分に付せられていること)などをも考慮すると、原決定の前記処分は、結局、重過ぎて著しく不当であると認めざるを得ない。

よつて、本件抗告は、その理由があるから、少年法三三条二項、少年審判規則五〇条により、原決定を取り消したうえ、本件を名古屋家庭裁判所に差し戻すこととし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 菅間英男 裁判官 服部正明 木谷明)

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